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第2話-真相は壁の中-

はしがき

ここは大阪千林。下町風情が今に息づく横丁。そっと耳を澄ませば聞こえてくるはず。不機嫌な気まぐれものたちの呟きが。「ひとりが好きなわけやないけど、だれかと一緒もきゅうくつ」俗世の垢にまみれ日々あくせくする横丁の住人たちをよそに、日がな一日ごーろごろ。退屈しのぎにぶーらぶら。そんな猫たちのお気楽な横丁暮らしを見るにつけ、物憂さなんてどこへやら。「喜びも悲しみもつかの間。のんびりいこや。生きるってメランコリーにあふれてるんやから」

第2話-真相は壁の中-

「おまえ大丈夫か?悪い夢でも見たんとちゃうか」

朝になって珠子は待ってましたとばかりに伯父さんに連絡を取る。が、スマートフォンの向こうから聞こえてくるのは、暢気に笑う伯父さんの声。

「確かに。一晩中悪夢だった。けど、この状況は夢じゃない。この声聴いてよ」

珠子はスマートフォンを壁に押し当てて、先ほどから壁の中でミャーミャーと鳴き続ける猫の声を聴かせる。

「いくらなんでも壁の中に猫はないやろ。どっかよそで鳴いてるんやて」

「いや、絶対に壁の中にいるって。嘘だと思うんならきてみてよ」

珠子の必至な声に、伯父さんは益々大笑いする。

「わかったわかった。取りあえずすぐそっちへ行くから。朝飯喰ったら落ち着くやろ。一緒にモーニングでも行こ」

一先ずスマートフォンを切って伯父さんを待つことにする珠子。

『何がモーニングよ。朝飯よりも工具がいるわ』

伯父さんの応対に不満を募らせる珠子であったが、ともかく今は伯父さんの到着を待つよりほかない。壁の前で神経病みの狼のごとくうろうろと歩き回る珠子。一向に鳴き止む気配のない壁の声。

程なくして伯父さんがやって来た。珠子は玄関先まで素っ飛んでいく。

扉を開けて珠子の顔を見るなり、伯父さんはにたにた笑う。

「どうしたどうした。猫と言うより、熊がおるやないか。大きな隈がお前の目の下に二匹も」

伯父さんのくだらないおやじギャグに、珠子の苛立ちはピークに達する。珠子は伯父さんの腕をつかむなり、部屋まで引っ張っていく。

「おいおい、妙齢の女性の部屋にことわりもなく押し入るなんてはしたないこと、いくら伯父さんでもようせんわ」

「四の五の言ってないで早く早く」

ふたりが部屋までたどり着くと、物音ひとつなく静まりかえっている。

なんたってまたこんな時に限って押し黙ってしまうとは。珠子は壁に向かってけしかける。

「鳴けったら鳴け!」

不意に不安に襲われる珠子。まさか、伯父さんが与太事のたまってる間に、壁の奥でくたばっちゃったとか…

「ほれ、言わんこっちゃない。せやから壁に猫なんて…」

と伯父さんが大笑いしようとした刹那

「みゃー!」

伯父さんは俄に神妙な顔つきになると、つかつかと壁に歩み寄る。そして、壁に耳を押し当てるなり、珠子の方を振り返る。

「えらいこっちゃ。ほんまに壁の中に猫がおるがな」