2015年01月

第1話-壁猫騒動(かべねこそうどう)-

ここは大阪千林。下町風情が今に息づく横丁。そっと耳を澄ませば聞こえてくるはず。不機嫌な気まぐれものたちの呟きが。「ひとりが好きなわけやないけど、だれかと一緒もきゅうくつ」俗世の垢にまみれ日々あくせくする横丁の住人たちをよそに、日がな一日ごーろごろ。退屈しのぎにぶーらぶら。そんな猫たちのお気楽な横丁暮らしを見るにつけ、物憂さなんてどこへやら。「喜びも悲しみもつかの間。のんびりいこや。生きるってメランコリーにあふれてるんやから」

第1話-壁猫騒動(かべねこそうどう)-

珠子(たまこ)はひとりベッドの中。さっきから引っ切りなしに寝返りばかり打っている。窓の外は土砂降り。大粒の雨が容赦なく窓ガラスを叩きつけている。時刻は深夜2時をまわったところ。草木も眠る丑三つ時だというのに、珠子の目は冴えに冴えて、もうぎんぎん。このままでは一晩中一睡も出来ずに朝を迎えるのは必至だ。

珠子が寝付けないのは、昨日の夕方から降り止まぬ春の嵐のせいではない。

珠子は昨日ここ伯父さん家に引っ越してきてばかり。引っ越してきたなんていうと聞こえは良いが…両親と口論の末、関東の実家を飛び出してはみたものの、行く当てはなし。しょうがなく伯父さんが千林の横丁に所有する事務所兼倉庫に転がり込んだと、言うのが実情。

久々にまともな寝床につけるとあって、荷ほどきもそこそこに、くたくたの身を横たえようと夜半過ぎにはベッドに潜り込んだ。そして泥のように眠る…はずだった。

悪夢はここから始まったのだ。

ごうごうと絶え間ない雨音に混じって、部屋の壁の奥をごそごそと得体の知れない何某かが這いずる音がする。初めのうちは、疲労のあまり幻聴がするのだと、もしくは浅い眠りの中で現実紛いの夢を見ているのだと、

『空耳空耳。直に雨音がかき消してくれるさ』

と気に留めないよう努めていた。が、一端気になり出すと、どうにもこうにも耳について離れない。

どうにかして眠りにつこうと一通り試してはみた。仰向けに寝転んで駄目なら、俯せになったり横向きになったり。耳が隠れるまで枕に顔を埋めてみたり。頭からすっぽり布団をかぶって、月並みではあるが羊を勘定してみたり…望みとは裏腹に努力はことごとく水泡に帰した。珠子は次第にイライラを募らせていく。

と不意に、

『ドッタン、ガタガタ、バタン』

ど派手な騒音を轟かせ、その得体の知れない何某かが壁の中の隙間をずるずる、ぼてっとずり落ちる。

『ぎゃー!』

壁の奥から断末魔のごとき悲痛な叫び声が。

珠子は布団を蹴っ飛ばすと、匍匐(ほふく)前進でベッドから滑り降り、壁にいざり寄る。

「こそこそ隠れてないで潔く姿を現せ。悪霊め!」

「みゃー!」

と、壁の奥から甲高い声が。

「猫かぶったってお見通しだ。この化け猫!」

こうして一晩中壁の板一枚へだてて押し問答しているうちに夜が明けた。

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